ちょっと変わったご本はいかが?

相変わらずお出かけしづらいご時世ですね。

おかげで書くネタがありません。というか、会社(アルファタウ)のサイトに載せるのにふさわしいネタがありません。ふさわしくないネタがどういうものなのかは極秘です。

うーむ。きっと普段アウトドア派な人たちも読書したりすることが多くなっているのではないだろうか? うん、きっとそうに違いない。ということで、ちょっと変わった読書ネタをご紹介したいと思います。と言ってもマイナーな作家ではありません。でもマイナーな作品です。たぶん。

夢野久作による「少女地獄」です。

夢野久作と言えば、日本(のミステリ・異端文学)三大奇書の一角である「ドグラ・マグラ」の作者として有名です。ご存じない方のために簡単に……。

日本三大奇書

以下の三作品が三大奇書と呼ばれています。

  • 夢野久作「ドグラ・マグラ」(1935年)
  • 小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(1935年)
  • 中井英夫「虚無への供物」(1964年)

はっきり言いますと、どれをとっても絶対オススメ! ……ではありません。相当読者を選びます。

  • ドグラ・マグラ - 文章は読みにくくはないのに、とにかく不可解。読了後において、犯人はおろか、主人公が結局何者かさえわかりません。かの横溝正史先生は、再読時、気分がヘンになり夜中に暴れてしまったそうです。(奥様も認めていらっしゃるようです)
  • 黒死館殺人事件 - ペダントリー(衒学趣味)の洪水。ちょっと何言ってるのかわからないです。少なくとも衒学趣味って何? という方はやめておいた方がいいと思います。
  • 虚無への供物 - この中では比較的読みやすいと言われていますが、その代わりにとっても読者を選ぶと言われています。アンチミステリと呼ばれています。……すみません、まだ読んでません。すっごくヒマになったら読もうかと……。

で、私はドグラ・マグラは数回読んでいますし、当然お気に入りです。

じゃあ、ドグラ・マグラを紹介すればいいのに、なぜしないのか。

ちょっと内容的にも、今一番流通している角川文庫版の表紙的にも、ここで紹介するのにふさわしく「なさ過ぎる」というのが本当のところです。せめてあらすじくらいはWikiから引用しておこうかと思ったのですが、それすらためらわれますので、興味のある方はどうぞ調べてみてください。

というわけで、少女地獄です。

少女地獄
少女地獄

すごいタイトルですが、別に幼い少女たちが世界の危機を救うために戦うようなお話ではありません。若い女性が主人公の物語が三作収録された短編(中編)集です。なぜこの作品をお薦めするのかと言いますと、作品自体の魅力はもちろんのこと、ドグラ・マグラの前に試しに読んでみるのにちょうど良いと思うからです。短編集ですから気軽に読める分量ですし、内容的にも不可解かつ幻想的な空気を保ちつつ「一応理解できる」くらいです。

特に印象的な作品は冒頭の「何んでも無い」です。

「何んでも無い」あらすじ

物語は耳鼻科医を開業している臼杵医師が先輩医師である白鷹医師に送った書簡の形式で語られます。姫草ユリ子から届いた遺書で彼女の死を知った臼杵が、白鷹にユリ子に関する今までのいきさつを物語風に報告するという体裁です。

この姫草ユリ子というのが本作の中心人物なのです。彼女は青森の造酒屋の娘で、地元の県立女学校を出た後に両親や兄の反対を押し切り上京、K大の耳鼻科で勤めていた現在19歳、という経歴。

そして、その経歴をもって臼杵医師の医院で勤めることとなったユリ子です。彼女は美しく、とても優秀な看護婦で、老若男女問わず魅了する魅力をもってたちまち町でも評判となり、医院もユリ子のおかげで大繁盛となったのでした。

しかし、ユリ子の経歴はほとんど嘘。

ここから、色々な事柄が絡み、彼女の嘘がばれてゆきますが、それでも次々と嘘を重ねて周りの人々を幻惑してゆきます。しかし最終的には行き詰まり、冒頭の遺書の通り、自殺することとなります。が、その遺書にも嘘が……。

そういうお話しです。

物語的には平易なのですが、美しく、能力もあり、人から愛されるユリ子だけに、そのすべてを嘘で塗り固めた生き方は一種、怪物的な異様さをもって読者を悩ませます。

虚構の中で生き、虚構の中で死ぬ。そんな彼女の人生は私たちを驚かすだけではなく、理解できるようなできないような、考えさせられるようなそうでもないような、奇妙な感覚を与えてくれることでしょう。

この作品を読んで、魅力を感じるようでしたら、ドグラ・マグラへGOです。あっちはもっと色々わかりませんが、少なくとも適性はあるような気がします。

ちなみに夢野久作の作品は、著作権切れのため、主に著作権切れの作品を公開している青空文庫で無料で読むことができます。PCのブラウザのほか、スマホアプリでリーダーも数種類リリースされていますので、外出先でも大丈夫です。私は「i文庫HD」(iPad用)と「i文庫S」(iPhone用)を使っています。青空文庫上の作品をアプリ上で自由に取り込めるほか、その他のテキスト類もクラウド経由で取り込めるので便利です。ただ、結構古いのと、Android用が現在公開されていないこともありますので、それぞれご自分に合うものを探された方が良いかもしれません。アプリ検索で「青空文庫」と入れれば、出てくると思います。

ただ、夢野久作作品の不可解かつ幻想的な物語に浸るためには、まずは紙の書籍で読まれることをお薦めします。昭和初期に書かれた作品世界の雰囲気的にも、やっぱり紙の方がしっくりきます。

このご時世、おうちで動画も良いですが、たまには読書で自分の世界に浸ってみませんか?